オリジナル


噂の背骨


 俺の彼女は噂好きであり、噂に尾ひれ背びれをつけるのをこよなく愛している。さらに彼女は俺の学校で噂される人物。噂では悪の限りを行い、教師面々からも不良で通っているらしい。退学もされずに彼女の伝説は続いている。



 今日は、雲ひとつない秋晴れ。路上を歩いていると、とても気持ちのよい風が通り抜ける。思わず俺はステップを踏みたくなる心持ちで、自分の学校へとたどり着いた。ついた途端に、視線が一斉に絡みつく。俺は嫌な予感に慌てて、自分の教室へと走り出す。

ドアを開けた途端にクラスの視線を一斉に浴びる。その視線の中から、よく釣るんでいる中本へと歩み寄る。そして、中本は変わらない表情で当然のことのように話をする。

「おい、北山の彼女が教頭の机にラブレターを置いてきたらしいぞ」

「なっ!」

俺は思わぬ話に、咳き込んで咽た。彼女はいつも突拍子すぎる。思わず中本の首に手をかけ力をこめる。

「それは本気かっ」

「ちょ、おま、え……」

顔の色合いが悪くなったところで俺は慌てて手の力を抜いた。中本が激しく咳き込みながら、俺の頭を叩く。相当苦しかったようだ。

「お前も噂の人物になる気かっ」

「ご、ごめん」

中本は呼吸が整い、格好をつける手前に咳払いをひとつする。そして、内緒話をするような姿勢で俺の耳元に口を近づけた。

「んでな、ラブレターらしい封筒を教頭が開けたらその中には……」

「その中には?」

俺は先をせかすように言葉を紡ぐと、中本は意地の悪い笑顔を口元に浮かべた。

「赤い口紅でバーカって書いてあったらしいぜ」

「なんだそりゃ」

俺は呆れた表情を浮かべ、眉を歪めた。そして、中本は話が終わるとそのまま自分の席へと戻っていた。周りの視線も興味が失せたように消えている。俺は自分の席へと戻ると今日の授業の用意をし始める。

いつものことである。彼女はいつも突拍子がなく、噂は消えない。しかし、深くも追求されない。それが彼女だからである。

俺は彼女を思いながらふと思う。寂しくは無いのだろうか。そんな人々の記憶に残るような残らない彼女はどう感じるのだろうか。しかし、答えは彼女に問わなければそれは分からないだろう。



俺は、その日はまた彼女の噂が流れることもなく、平和に過ごした。けれど、一度感じた違和感は胸に刺さったままだった。

次の日、不甲斐無い事に胸の刺さった片鱗を考えているうちに朝が来ていた。そのため、最悪の朝と言える。昨日とは違って空は薄暗く曇り空。俺の心境と同じように濁っている。俺はため息をひとつ零しながら家路を後にする。

重い足取りでついた学校では中本が待ち受けていた。また彼女の噂か、と歩み寄ると彼は言った。

「おい、“島根”の彼女が校長のカツラをバンジージャンプさせたらしいぜ」

「えっ、島根?」

中本が呆れたような表情で言う。

「おいおい、お前どんだけ遅れてるんだよ。昨日だって教頭にラブレターを置いてきた話はしただろう?」

俺はそこで彼女が世代交代をしていったことを知った。本当に最後まで突拍子がない彼女である。噂の彼女はこの学校の悪行の代名詞であり、彼女は渡り鳥のように転々と移り変わる。そして、彼女は存在しないゆえに自由であり束縛を受ける。すべての悪事は彼女へと、割り当てられる。しかし、それは止められるものではない。この学校の七不思議として彼女はこれからもそれらを行う。噂の核として。

 そんな彼女に俺は一つ噂をつけたいと思った。

変わらないだろうが、少しでも俺の一言を彼女に残していたい。俺が卒業しても彼女はこの学校で生き続けるのだろうから。

「おい、中本。知ってるか?」

中本は不思議そうな顔でこちらを振り返る。

「彼女、実は百合の花が好きで優しい奴なんだよ」

中本は呆れた表情でつぶやいた。

「“知っているよ”」




- end -

2008-09

あとがき

 1時間で書きました。すいません。ごめんなさい。本当ごめんなさい。

 お付き合いありがとうございました。

 今回は半不思議系で行ってみました。とりあえず、息でも止めて見てください。そうすれば目に入りません。では、またあえたらよろしくお願いします!

綺兎