オリジナル


「最終電車が発車します」



最終電車が発車する。甲高い発車ベルがホームに響いた。その発車音に俺は目が覚める。慌てて腕時計を確認するとまだ俺の駅までには時間があった。窓からの眩しいホームの明かりが目に当たる。眠さと眩しさで締まりそうになる瞼を持ち上げると、電車の扉が開閉する空気の抜けるような音がして、ホームをすべる様に電車が動き出した。
再度確認するように覗き見たホームは、見知らない場所に自分の降りる駅じゃないと分かる。窓の方に押し付けていた頭を擡げ、座席に座りなおす。バイトの疲れにより座った途端に睡魔によって寝てしまった。ぼんやりする記憶を整理する。しかし本当に自分の駅を通り過ぎていなくてよかったと、欠伸をかみ締めながら視線を窓に走らせた。
視線を流れていく無人のホームには、ホームに必ずあるはずのものがないことに気がついた。ホームに無ければならない駅名の看板や売店が無く、さらにホームから改札へ向かう階段や入り口が見当たらない。土台に屋根がついただけの不思議なホーム。そう考えているうちにホームを通り過ぎ、視界が真っ黒になったかと思うと街頭が点々と、窓を通り過ぎるだけで、他には何も見えない。
電車特有の振動と音と同じように自分の鼓動が早くなる。左右の窓は真っ暗になり、電車の薄暗い白熱灯がぼんやりと車内を照らす。
窓からの景色は電車の走る路線の道とその両側に点在する街頭だけと田舎の道さながらの様子に、俺はいったいなんの電車に乗ったのかと不安が頭を擡げる。
電車の方面を間違えてしまったのだろうか。慌てて電車を見回す、四人がけの対面式の座席になっている電車。最近の電車では珍しい形だが、変わったところはない。俺の方面の電車では一般的な形なので、都会の友人が遊びに来た際に珍しがるのには眉を歪める事が多々ある。
そして、俺が乗り込んだときのままの乗客は少なく、所々に散り散りに座っていた。その事に違和感を覚える。電車はいくつかの駅に停車したはずなのに、誰も降りてないのはおかしくないだろうか。さらに乗客全員が一様に窓を見つめている。
駅員に電車の方面の確認を取ろうと、立ち上がる瞬間に後ろの座席に座っていたらしい男が同時に立ち上がり、俺の胸倉を突如引っ張った。息がかかるぐらい近い男の顔は、サングラスが掛けられていたが端整な顔立ちのようだ。しかし、口元が横ににんまりと広げ俺を嘲るような表情を浮かべている。そして、茶髪の髪をワックスで尖らし、派手な色合いの服を身にまとっていた。
突如胸倉をつかまれたことに対して思わず、身が強張った俺に男は喉を低く鳴らして笑う。
「俺が怖いのかい、ニイちゃん」
にたりと笑う男に気味悪さを感じながら、胸倉を掴む手を叩き落とす。そんな様子に益々顔を歪める男に、尋常じゃない恐怖を抱いた。
「そんなに驚くこともないじゃないか? まぁ、確かに現状に恐怖を抱くのは当然だろうがな」
男は自問自答に一人納得し、目元のサングラスを外した。サングラスを外した男は女に受けそうな風貌をした面であることに、さらに俺は不快を顕著に顔に出した。
いつまでこんな会話が続くのかと思った矢先に、男は外へと視線をずらしたかと思うと、眉が少し歪めた。そして、外したサングラスを俺に差し出す。俺は訝しげに差し出されたサングラスを見ていると、無理やり男は俺にサングラスを握らせた。これでも持っていればしっかり視界を確保できるだろうと、呟くと男は違う車両へと移動する扉の方へと歩き出してしまう。体の向きを変えることなく手をこちらへ別れを伝えるようにブラブラと振ると、扉のほうへ消えて行った。別れを惜しむ仲ではないから、その行動は奇妙だ。乱された胸元を直しながら、男の方へと鋭い視線を送る。男は気づかないまま扉へと消えてしまった。
しかし、男が扉に消えた突如に、扉の隙間から赤く真っ白な光が差し込んだ。薄暗い車内にそれははっきりと線に見えた。燃えるように眩しい光が電車の扉の隙間から漏れることなんてあるはずがない。次に聞こえるのは爆音、そして何かが燃えるような音が聞こえる。暫らくして、それがあっけないほどに静かに収束した。隙間から漏れる光も収まり、電車内はまた特有の振動と音を響かせる。
そちらの方から肉が焦げたような臭いがする。男がどうなったのかを表しているようで思わず俺は吐き気をこみ上げさせた。燃えたものなんて、ひとつしか想像出来ない。辺りを見回すが、乗客は窓に視線を止めたまま微動もしない。

「おい! 何とか言えよ」
恐怖に声を張り上げる。しかし、乗客は何も答えない。沈黙がそのまま続くことに苛立ち、乗客の一人に手を伸ばそうと近づいた。そこで邪魔をするように歯車の重なり合う、玩具のゼンマイの妙な音が聞こえてきた。徐々に電車特有の音よりも存在感を主張する。胃が痛むのを押さえつけながら、そちらにゆっくり視線を向ける。髪の長い女が通路に突如現れていた。女が何かをぼそりぼそりと、一人で呟き漏らしている。その声は歯車の音よりも大きくなったとき、音ははっきりとした輪郭を持った。
「電車に乗ってはいけないものを発見、排除」

「うわあああっ」
動かない女から吐き出された声が、前からではなく耳の傍で呟かれた。慌てて横へ視線を移すが、何もいない。女は前に立って動いた様子も無い。しかし、その声は何度も何度も耳元で囁かれ、女がきしむ音を響かせて頭を擡げた。その突如、体が反射したように背後の扉へと走り出す。あれは見てはいけない、そう警告音が頭の中で響き、それ以外は真っ白になった。背後を振り向かず、一直線に扉へ入り込むと、女が入れないように扉の持ち手に上着を脱ぎ縛る。シャツ一枚になってしまったが全身にはつめたい汗が噴出した。
扉へ視線を向けたまま、耳を澄ます。しかし、扉を閉じた途端に先ほどの音はぱったりと途切れ、電車特有の音が戻っていた。早くなった鼓動を落ち着けるように再び大きく息を吐き出した。そこで、男が燃えたかもしれない扉に入り込んでしまったことに愕然として、慌てて周りを見回す。
しかし、先ほど俺がいた車内と大差ない車両である。だが、4人が対面する座席ではなく、都会の電車に一般的な窓を背にして座るような座席になっていた。左右に広がる窓の向こうは先ほどと変わらず、車内の明かりもぼんやりとした白熱灯が照らしている。
さらに、危惧していた肉が焼けたような臭いはしなかった。先ほどはこちらから漂っていたはずだが、何もない。死体も転がっていない。灰もない。清潔な車内とは言いがたいが、一般的な綺麗なままの状態だった。
視線を前へ向けると乗客が独りしかいないことに気がつく。真っ白な服を着た女性が一人真ん中辺りの座席の片側に座っている。異様な風貌に思わず後ろに足を下げるが先ほどのことを考えると戻る気は起きない。覚悟を決めて、真っ白な服を着た女性に近づいた。

「この列車から出たら凍死しちゃうのよ」
女性の傍まで来た途端に女性が、ポツリとこぼした言葉に足を止める。俺は訝しげな表情を浮かべると、女性はふんわりと微笑む。
「そう、それ以上近づかないほうがいいわ。 先ほどの彼のようにあなたは強くないのだから」
「彼?」
彼女はゆっくりとした動作で、通路の左、俺の真っ直ぐ行ったところにある扉のほうを指し示す。進行方向にある一番先頭の車両で、扉にはプレートが貼り付けられ、『駅員室』と表示されている。そちらのほうへ向けていた視線を俺のほうへ向ける。見上げられる形にある女性の表情は見ているようで見ていないようだった。彼女の視線に俺が映っていない。
「あなたは行ってもいいわ。私はあなたを邪魔することは出来ないの。まだ、ね」
何かを含ませるような話し方に、言葉を出そうとしたが女性の無機質な微笑みに口を開くことが躊躇われる。突如、俺が先ほど入ってきた扉が力強く軋んだ。
何かが扉を叩きつけている。ひとつ、またひとつと力強く殴られたように膨らみが現れ、そのたびに扉が軋む。そして、扉を閉じていた柔い防波堤である俺の上着が引き裂かれ、扉が開かれた。先ほどの真っ黒な髪を垂らした女が現れる。扉を殴打したらしい片腕はだらりと垂れ、掌がありえない方面へ向いていた。しかし、流れ出るものは血液ではなく、黄色く発光する液体。俺は体中に震えが走る。尋常じゃない、俺は後ろに震える足を引いていく。俺に近づくように、ゆらゆらと髪を微かに揺らし、女が足を車内に踏み入れる。真っ白な女性がそれを遮るように、俺の目の前に立った。

「ねぇ、太陽を吸い込んだら銀河はどうなるのかしら」
女性はそう呟くと同時に女が顔を上げた。女の顔は人間とはいえないものだった。
目と鼻と口がある場所が真っ黒な空洞になっていた。ごそりと中身がなくなってしまったような空洞。そこをじっと見つめると吸い込まれてしまうような感覚に陥りそうになった。しかし、俺の視界を遮るように彼女の手が伸ばされた。ゆっくりと、彼女の体から煙が上がる、そして真っ白な蒸気が上がると、彼女の体が淡く発光する。彼女の回りの空気が燃えている。彼女の一歩前に踏み出され床に触れると、そこは瞬時に溶け始め、燃え始めた。彼女は右手に力を込める。すると、そこに光が集まった。
「無は有になってはいけないし、有は無にしてはいけないの……、けどね」
真っ黒な空洞を持つ女が始めて怯んだような動作をとる。彼女は瞬時に床を蹴り、女の顔へ向かって掌底を叩き付けた。しかし、女は顔を反るようにしてそれを避ける。しかし、それが分かっていたかのように打ち出された掌底からは炎が迸り女を追いかける。女の周りは炎上し、炎が辺りを囲う。炎は女を飲み込んだように見えたが、深い空洞に炎が勢いよく吸い込まれ、女に炎を触れさせることは出来なかった。炎の勢いが増し、広がっていくが彼女と女は動じていない。そして、炎は俺の目の前で線が引かれたようにこちらには広がってこない。
動じない女を見つめながら彼女は苛立たしい表情を浮かべ、俺のほうへ振り返らずに声を掛けた。俺は人形のように固まった状態で、女性のほうへ恐怖で揺れる視線を向けつづけている。
「足止めしか出来ない、早く行きなさい」

そして、それに俺は何度も頭を縦に振ると、慌てて背後の扉へと走り出す。そして、俺が前に進んだ途端に後ろの炎は線引きされた箇所が消滅したようにたちまちに広がる。先ほどよりも熱を倍増させ、追いかけるように熱風が迫って来るのを感じた。慌てて『駅員室』の扉を開け放ち、中に滑り込み扉を閉める。隙間から、熱が爆発したような熱気と眩しいぐらいの光が迫ってくるのが見え、閉じた途端に慌てて扉から離れた。扉の持ち手が高温に熱されたように鈍く赤く光をともす。手を少し伸ばそうとしたが、慌てて手を戻す。扉は高温を帯びているようで、触れようとすると火傷を負うぐらいの熱気を帯びていた。

「同じもの同士の攻撃は、対象者から攻撃者に跳ね返る。本当に嫌になる」
火の海になった空間で、悠然と立つ女をあざ笑う。数千の熱気に、生身の人間が触れれば瞬時に燃える。しかし女性は人間ではなく、また女も人間ではない。
「私を消せない、私もあなたを消せない。足止めしかできないなんて、聞いて呆れる仕組みね」
女性はしかし、不敵に笑う。女の体が強者に迫られる弱者のように震える。
「ブラックホール。あれらを食べるのは私だ。何万年後に食すと決めている。邪魔をするならば、銀河をも滅ぼそう」

「なんだっていうんだ」
俺は混乱する頭で悪態をつきながら、背後へ振り被った。さらに、混乱する状態がそこにはあった。燃えたと思っていた男は彼女が言ってたように背後をこちらに向けたまま立っている。そして、普通の車内があると思ったそこはぽっかりとしたパイプに囲まれた箱のような場所だった。座席も何もなく、窓もない。薄暗い暗闇を無機質なパイプが大量に寄り添い薄く発光し、明るさを保っていた。壁と、天井と、床に敷き詰められた何かを送り込むためのパイプは前方の男の前にある黒い箱に集中し、繋げられていた。繋げすぎて、歪な不思議な箱。男はそれを真っ直ぐ見ている。
「時間が足りない」
男は一言ポツリとこぼした。男は俺に今気がついたように、こちらへ視線を移す。その瞳は先ほどよりも意思が弱まったような視線だった。
「彼女が簡単にお前を通したのか」
言葉には破棄が無い。けれども嘲りを含む声音で呟きながら、男は自らの髪を掻きあげる。その途端に茶髪の髪から淡く光る砂らしきものが振り落ち、色合いが茶から白へと変化していく。そして、最後には完全に真っ白になった。瞳の色も片方の目が黒から金色へと変化する。
「お前なんて囮のまま、空虚人形に吸われてしまえとも思っていたんだが、彼女が助けるとは本当に運がよかったね」
風貌の変わった男を俺は唖然と見つめていると、男は気にした様子もなく黒い箱の中へと近づき手を伸ばす。その箱にゆっくりと切れ目が入り、蓋が開いた。
蓋が開くと中には年の端もいかない少年が眠っていた。しかし、少年は普通の人間ではないことに気がつく。青い髪に死人のように血の気のない肌。そして、顔の半分と、片腕が消えていた。少年の体は半透明で、消えている部分には電子記号のようなものが浮き出ている。電子記号で形作られたような人間。その少年の消えていない瞳は眠っているらしく閉じている。

「この箱は、この子が消えないようにしている生命装置。お前らが傷つけたおかげで仮死状態になっているお前らの星だよ」
男は少年の頬を撫でながら、ポツリとつぶやく。
「星ってどういうことだよ、意味がわからない」
「お前らが大切で身を削っているのに、お前らは気がつかないんだな。お前らどこの星で住んでるんだよ」
男は冷たい視線をこちらに向け笑った。敵意が籠められた視線に鋭く射抜かれる。そして、男は呆れたようにため息を吐き出す。そのことに俺は男に悪態を吐く。
「説明も無しにこんな状況にさせてるのはどっちだよ」
「それもそうだな、……お前は囮だったんだよ」
男は言う。箱に入っている少年は俺たちが傷つけたことにより仮死状態に陥った。そのままだと空虚人形に飲み込まれてしまう。
「それで、視線をそらすために俺を囮に使ったって言うのかよっ」
「まぁ、彼女に助けてもらえたのを感謝することだな」
男は悪びれずに、俺に近づくと突然胸倉を掴んだ。その途端、先ほどまで俺がいた場所に、背後の扉が破裂し倒れてきた。俺は頭だけを背後へずらす。そこには髪の長い女が再び現れていた。俺は知らず知らずに手が震えるのをとめられない。胸倉を掴んでいた男は、それに気がついたように鼻で笑うと俺をそのまま離す。俺は背中を床に強打し、顔をしかめた。背後には女の気迫がする。いつの間にか空間にぜんまいの奇妙な音が響き始めていた。
「仕方ないから、吸われてくれないか」
男はこちらに顔だけを向け、にたりと奇妙な顔で笑う。口元は微笑んでいるが、目は笑っていない。空気が女のほうに流れていく。それは段々と力強く吸い込まれていく。重力が無くなったように体が浮き上がる。咄嗟に俺は男の足にしがみつく。その状態に男は、不機嫌そうに眉を寄せる。
「いいかげん離してくれないかな」
「ふっざけんな! 離したらジ・エンドじゃねぇか!」
平然としてる男に悪態をついた。すると、男は溜め息を吐くと再び俺の胸元を掴むと、強引に箱のほうへ放り投げた。俺は突然のことに頭を打ち付ける。痛む頭をさすりながら起き上がると、重力が戻っていることに気がついた。箱の周りに、女性が炎上させたとき俺の前に境界が現れたのと同じように線が引かれている。
「へぇ、珍しい」
背後に突然声が聞こえ、慌てて振り返ると先ほどの女性が立っていた。女性は俺の方へ視線を向けている。そして、女性は俺に触れようと手を伸ばしたが、そのまま手を引いた。
「奴があなたを守るように動くとは思わなかった」
そして、女性は少年の方を指し示す。少年の周りが発光し、だんだんその光は強くなる。
「全てはあの子のためなのでしょうけれどね」
女性の言葉は霧散して消えるのと同時に、少年の体が透明から明確なものになっていく。消えて、崩れていた記号が形を成し、肉体に戻っていく。死人のようだった白い頬は赤みを帯び、全身が完全に現れたときには目蓋をゆっくりと開け始めた。透き通る緑の瞳は俺を映すと嬉しげに微笑む。

その途端、ぜんまいの音が途切れた。背後を振り返ると、女が床にひれ伏している。女の腹がひび割れ、歯車やバネ、綿が飛び出ていた。男が女の腹に掌低を打ち付けたようだった。女は魚が跳ねるように微かに動くが、それ以上は反応しない。
しかし、勝利したはずの男が自らの腹を抑え、口から黄色の発光した液体を吐いた。
「すぐ起き上がってくるのに、馬鹿なことをするのね」
女性は嘲りを含んだ声を、男に言う。男は弛緩した体をゆっくりと此方に向け、女性に鋭い視線を送る。しかし、少年に気がつくと先ほどのことが嘘のように優しげな微笑を浮かべた。

「おはよう」
男は少年を抱きしめると、優しい声音で呟いた。少年は苦しそうに、男の胸の中でもがいている。その状態に今までの男と、見かけもよらない状態に思考が停止した。
「ブラコン……」
そうとしか言いようない状態であった。
そして、男は満足したように少年を離すと、今までの表情から、やっと人間らしい表情を表し少年の頭を撫でる。
男と少年は兄弟のようだ。少年も男に向かって嬉しそうに微笑んでいる。そして、男が今更気がついたというように俺に視線を向けた。
「あぁ、おかげでこの子が無事だった。ありがとう」
今までの事に対して拳に力を込めていたのだが、その前に男がすまなそうに礼を言ったおかげで、空気が抜けたように萎んでしまった。
そして、男がまじめな表情に変えるとポツリと零す。
「お前たちの足場が完璧なものだとは考えないでくれ」
そして人間味のある意地の悪い笑顔を浮かべる。
「そんで、最終電車には気をつけることだな」
男がそう言うと、男の横が眩しく光ると突如として、一枚の電車の扉が現れた。
その扉の向こうには見慣れたホームに見慣れた看板。そこは俺の帰るはずだったホームが広がっていた。思わず、俺は扉に近づく。踏み込まずに覗き込もうとしたが、途端に背中を押し出された。倒れそうになった体を起き上がらせると、電車が発車する、背後の扉が閉まる音がした。閉じる瞬間に男の声が確かに耳元に響いた。
「お前らが住む場所が変わらないと思うなよ、汚れれば汚れるほど傷ついているんだ」

賑やかなホーム。背後を振り被ると、扉が合ったところには何も電車はない。ホームの外のビルの乱立した様子が見える。しかし、確かにそこには見えない電車の振動と音が響いている。そして俺の頬を撫で付ける風が収まると、音と電車の気迫が霧散した。
「無知より非情なものはない、か」
誰にも聞こえない声で俺は呟いた。電車を見送るように何もない線路の先を見つめていると、最終点検を行っていたらしい駅員がおかしなものを見るようにこちらに駆け寄ってきて、事情聴取を受ける羽目になった。無事帰宅したときには肉体は鉛のようで、帰宅早々に布団に潜り込む。ふと、テレビをつけると深夜のニュースが映っていた。環境破壊のニュースが映し出され。危険性を訴えかけている。
「まだ最終電車に乗ってるのかもしれないな」
そして、テレビの右端に映る時計を見ると、慌てて腕時計を確認する。腕時計は30分も遅れていた。俺が乗った時間には既に最終電車は無くなっていたと今更気がついた。
おわり

- end -

2009-2-23

あとがき
終わりました!
いまさらですが訂正したら尺が足りなくなって慌てて、ツギハギを挿入してあります。読んだらわかる。絶対ばれる。

いつものことですが、息を止めれば字が読めないですよ。むしろ、違うことと同時進行で読めば、頭に入りません。





今回はちょいと尺が長いので解説します。見たくない人は読まないでくださいな。
今回は電車=銀河の予定で作成しております。太陽と月は対極し、けれど月は地球の周りをウロウロする。ブラックホールは惑星を飲み込む。銀河の中心は太陽のため太陽は飲み込めない。惑星を飲み込むと軌道がずれるので飲み込めない。しかし、惑星はブラックホールに手を出すとそれ相応の不可を負う。それを考えつつ書いたのですが、うまくいきませんでしたね。
もう少し言葉の表現を勉強してきます。




それでは本当にお疲れ様でした。
ここまで読んでくださりありがとうございます。

綺兎