同人


唐突

無意味に同人。BL作品。単語無知注意。

「一緒に死んでよ」

「いやだ」



俺が好きになったのは、家事洗濯も出来ない、能天気でマイペースで何を考えているのかも分からない。仕事をやっているのか、やってないのかが不明。そんな男でした。



汗が頬を伝い、首筋に流れていく感覚が気持ち悪い。体全体が水を被ったように、湿っぽかった。俺はそれでも懸命に自転車のペダルを漕ぐ。朝というのに燦燦と照りつける太陽を背に、新聞を大量にかごへ突っ込んだ自転車で坂を越えている最中だ。毎朝の難関だが慣れそうにも無い。90度あるのでは無いかと思われるほど、頂点の先が見えず、長い坂。足の太ももの筋肉はすでに悲鳴を上げ、気力も無くなりそうだ。しかしこの坂を越えれば、最後の難関である田中さん宅への配達が終了し、仕事が終わる。それを一身に考えながら、気力を振り絞る。そして、どうにか坂の頂点に到達し喜びをかみ締めた途端に気の緩みで自転車のバランスが崩れ、そのまま盛大に音をたて転げた。

その拍子に新聞は辺り一面に錯乱し、見るも無残な状態になっていた。

「やっちまったか……」

俺は頭を抱え蹲る。今回で四回目。日本に伝わる言葉では、仏の顔も三度までと言われている。既に店長もお怒り気味だ。しかし、逃げるわけには行かない。俺は慌てて錯乱した新聞をかき集め始めた。新聞はそこまで汚れてはいないが端々に泥が付着し、破れているものもある。ペナルティーは逃れられないな、とため息を吐いた。しかしまだ早いこともあり、車のとおりが無いので助かった。さらに小道なので滅多に人も通らない。ここが大通りであったなら、もっと悲惨な状況に陥ることになっただろう。そうなったらペナルティー以上も有りえたのかもしれない、と身震いした。辺りは風に揺られた木々の葉音と、蝉の鳴き声が聞こえていた。

黙々と新聞をかき集めていると、突如目の前に足が現れた。靴が新聞を踏んでいる。それは無事だった新聞だった。この弁償代誰が払うと思っているのだと、怒気を含め視線を上げると……あいつがいた。家で寝ていなかったか、俺は苛立たしい気持ちで言葉を吐く。

「何してやがる、トウ」

「ん、散歩」

怒りを露骨にするも、トウは気にした様子も無くのんびりと答えた。こいつには何を言っても通用しない。俺は手を握り締めたまま、怒りを押さえ込むと荒々しく声を張り上げる。

「早く家帰れ」

「やだ、つまらない」

「こんなところに、いてもつまらないだろうが」

「やだ」

駄目だ、埒が明かない。俺は無視を決め込むとまた、しゃがみ込み新聞を掻き集め始めた。トウは同じようにしゃがみ込むと、顔を覗き込んでくる。女顔とよく言われると本人自身が言っていた顔は、色白。髪はまっすぐに伸び柔らかさも感じさせる。目は少し垂れている。それが女心を擽るのか、幼少時代から持てていたらしい。トウは年上の癖に子供っぽい。逆に俺は、粗雑に切った黒髪に、普通の顔をしているとやくざかと思うほど目付きが悪いと言われ、よく逃げられ振られていた。けれど、頼りがいのある兄貴分と言われる。ご近所さんの兄弟のような仲と言われる俺たち。兄貴が俺で、弟はトウ。逆じゃないのかと思う。けれど、今でも縁は続いている。

「ノイ」

トウが俺を呼ぶ。だが、俺は振り向かない。視線が一向に逸らされない。俺はため息を、吐くとトウの顎に手を触れ引き寄せる。耳朶に口を近づけ低く囁く。

「お前、誘うな」

その途端トウの肩が少し震え、覗き込むように俺を見てくる。俺は、思わず唇を啄んでいた。唇が閉じる前に舌を捻じ込み、舌を絡めとる。トウの息遣いが乱れ、たまらなく興奮させる。唇を離すと艶やかに湿った唇が俺を誘うも踏みとどまる。

そして、踏みとどまった俺を見て、トウは不満そうに眉を歪めた。

「ちっ、失敗したか……」

悔しそうに呟いたトウの言葉を聞き逃さなかった俺は厭きれた表情でトウを眺めた。

「お前、やっぱり狙ったのか」

乗ってしまった俺も俺だが、と自己嫌悪に落ちながらも、付き合いきれんと新聞紙を纏めると自転車に詰め込み、トウを放置したまま一目散に田中さん宅へと走り出した。振り返るとトウは妖艶に笑ってこちらを見ていた。家に帰った後を心配しながら、俺はやるべきことのみを考えた。



やっと田中さん宅へと配達作業が終わり、販売店に戻ってきた。そして帰ってきた早々に俺は、店長にこってりと絞られる。始まりは新聞のお話から、仕舞いには奥さんの愚痴までも聞かされ、最後に次からは気をつけるようにと、言われお説教が終わった。勿論、新聞弁償代は給料から減らされることになった。今日は厄日だ、と考えながら汗で湿った洋服を変えようと更衣室で着替えをしようと部屋に入る。そこには気さくな先輩が先に着替えを行っていた。
「野伊くん、お疲れ様だね」
「はい……、紙田先輩は今終わったんですか?」
俺は、腕時計を見ながら時間を確認する。いつもならば既に帰宅しているはずの時間だ。そんな不思議そうな俺の顔を見ながら、肩を竦めて紙田先輩は言う。
「いつもと違う担当地区を回ることになってしまってね、道に迷ったんだよ」
「それは、すいません」
俺は、慌てたように頭を下げると、紙田先輩は軽く笑って気にしない気にしないと、肩を叩いてくる。こんなに馴れ馴れしかった人だったか、と俺は眉を歪める。しかし、気のせいにしようと軽く受け流し、ロッカーに手をかける。その時、後ろから紙田先輩は強くロッカーに置いた手を押さえつけてきた。俺は驚き振り返ると、先輩に向き合うように体全体で押し付けるようにされ、身動きが出来ない。
「何の冗談ですかっ!」
「ねぇ、これ誰でしょうか」
紙田先輩が意地悪く笑いながら、ジーンズのポケットに手を突っ込むと、一枚の紙を取り出してきた。そこには朝のワンシーン。俺がトウを思いっきり押さえつけてるのが写ってるではないですか。俺は口を開けたまま言葉を出そうとしたが、言葉にならなかった。
「そういう人種だったとは気がつかなかったよ」
先輩は、圧迫をますます強め、抱きしめられたような形になる。俺は顔を歪めた。
「男好きなの?」
先輩は玩具を見つけたような、楽しそうな表情を見せている。瞳をまっすぐに俺に向けてくる。瞳が野獣のように力強い意思。けれど、その言葉に俺は我慢してたものが崩れた。
「ふざけるな、俺はそんなんじゃない」
「じゃあ、これの理由がつかないじゃない。 それと、そんな反抗的な目で見られるとぞくぞくする。あぁ、そうか彼が……っ」
根っからのサドだ。俺は厄日だと呻きながら諌める様に苛立ち顕わに、先輩の頬を殴り飛ばした。拳が頬に当たり鈍く音を立てる。反動で先輩は、よろめいたが直ぐに体制を立て直し、冷たい微笑みを受かべた。口の中が切れたようで、頬は赤く腫れている。
「それ以上いったら手加減できませんよ」
「乱暴だなぁ。 ……俺、君のこと狙ってたんだよ?」
俺は一瞬呆れたように眉を歪め、身の上を考え寒気を感じた。危なかったのか。俺は危険を冒すよりもこの場を、後にしようと汗の染みたシャツを着替えるのを諦め、ドアに足を進める。先輩は視線を向けたまま、動く様子がないので捕まえる気はないようだ。俺は一旦視線を向け言う。
「俺、あいつだから好きなんですよ」
俺はそのままドアを閉めた。 こんな言葉、あいつに向けて言えないな、とドアの前で少し考え、販売店から外へと出た。しかし、今日は本当に厄日らしい。
目の前が陰鬱な雲模様に、さらに風雨が烈しい。台風がくる日だったか、俺は暫し茫然としていた。すると、横から傘を差し出された。俺は、咄嗟に逃げるように振り返る。先輩だろうか、と視線を向けるとトウがいた。ピンク色の傘が眩しい。
「雨降ってた、だから来た」
無機質な声。けれど、服の所々が濡れている様子から走ってきたのだろう。そのことに、俺は少し目を細める。
「ありがとう」
トウは照れたように鼻で笑うと、顔を見せないようにさっさと先に行ってしまう。俺は追いかけるようにトウへ向かって歩き出した。きっと今トウの顔は、赤くなっていることだろう。そう考えると、俺は口元が緩んでしまう。けれど、トウにはばれないようにしよう。ばれたらきっと、襲われる。



なんだかんだで、そんな君が好き。

- end -

2000-01-01

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