携帯電話が鳴った。バイブの振動と今流行な音楽が、響く。
一回二回三回。そこで、音は途切れ留守電に変わった。
「今年は仕事が終わりそうもないから、帰れないわ。 明日は必ず帰るから」
申し訳なさそうな母親の声が留守電に録音され、そして電話は切れた。
とても無機質な声だな……私はその電話を耳に当て、聞いていた。通話ボタンは押さずに。
寒い冬。
枯れ果てた木々に色とりどりのネオンを飾りつけてある。賑やかな町は明るい色に統一されキラキラとしている。行きかう人々も顔を色とりどりの明るい色で染め上げている。あちらこちらでは嬉しげな笑い声。
暗い色に顔を染め上げた自分はベンチに居場所のない気持ちで座っていた。膝には持ち主不在のプレゼント。綺麗に包装されたそれは、行き場を無くしてしまった。寂しく膝上に納まっている。
冷え切った体を庇うように、体を丸める。寒さは心をも冷やし、そして頭の中では溢れ出す感情でどろどろした色に染まりきりそうだ。
プレゼントの主になるはずだった肉親である母。その母を、脅かそうと待っていた自分。
数秒前の状況。いたずらをする子供のような胸の高鳴り。
しかし数秒後の現在は、胸の高鳴りはもう消えていた。
そして、胸には痛みが残る。
本当は楽しく満足の行く日になる予定だったのに。今日こそはと思ったのに。
クリスマス色の町並みは自分にはとても眩しく、目を瞑りたくなった。
交錯する人々の先。
人々の間から先までいた。そこが見える。
母が働く会社。そこの入り口では、母が楽しげに男の人と話していた。
「母さんの嘘吐き」
吐き出した言葉は、白い綺麗な色に染まって霧散した。
簡単に消える息のようには、この胸のどろどろは止められそうにない。
そう、私は思った。
手を震わせる。今すぐにその原因の元へと歩もうかと思った矢先、目の前を白い服装が遮った。一向に退く気配もないので、視線を上げる。
腑抜けた笑みを口元に浮かべたそれに私は眉を諫めた。体格は細見で、身長は私と変わらない。そして、やわらかく目を細めていた。優男の表現に当てはまるような青年。しかし、不思議な雰囲気を漂わせている。
何か御用ですか、と棘を含めた声を出す。青年に邪魔され、燻ぶっていた胸をかき消された。今から行おうとしていた事が、賢いやり方ではなかった。冷静になった頭はそう答えを導き出す。けれど、勢いと葛藤がなければ言い出せないこともある。だから、苛立ちを隠せない。
「プレゼントは何が欲しい」
やわらかな声で青年が尋ねる。私は思わず耳を疑った。初めて出会った青年で、名前も顔すらも知らない。青年は悪気も無い様子。
ただのナンパかっ……私は邪魔された苛立ちに、思わず持っていたプレゼントを青年に投げつける。
しかし、プレゼントは青年に害をなす前に、綺麗にその手に納まった。
当たればよかったのに、と私は苦々しく口を歪ませる。そして、青年から視線を逸らして人の波へ紛れ込んだ。後ろから慌てた声が聞こえたが、今だけ中耳炎になったことにしよう。私はそのまま用も無い広場を後にしようと歩き出す。
それを邪魔するかのように、腕を誰かに強く掴まれた。私は痛みに眉を歪める。
真っ赤な服装の青年。先ほどの青年とは違い、冷酷な目で私を見下げてくる。その目を見た途端、暗示にかかったように体が固まり動かなくなった。
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-To be continued.-
2007-??
続き物のはずが未だに更新停止中な作品。
綺兎